「やさしいだと思います」という誤用について
みなさんこんにちは。鈴木です。いつもは梅野先生がブログを書いていますが、今日から私、鈴木も参戦することとなりました。毎週木曜更新予定です。
鈴木ブログの方では、留学生向けの日本語の授業や日本人向けの日本語学・言語学の授業で遭遇した誤用や文法にまつわるトピックを紹介していくつもりです。
さっそくですが本題です。留学生がよく言う誤用に「やさしいだと思います」「つまらないだと思います」という、「イ形容詞+だと思います」というものがよくあります。もうありすぎてフィードバックしきれないほどです。なぜそんなに間違えるのか、ちょっと考えてみたいと思います。
まず、ご存じの通り日本語の形容詞には形容詞と形容動詞があります。日本語教育では前者はイ形容詞、後者はナ形容詞と呼ばれています。イ形容詞というのは主に和語(大和ことば)ですね。「大きい」「小さい」「狭い」「高い」「安い」「うるさい」などです。辞書形の最後がイで終わるからイ形容詞といいます。わかりやすいですね。
問題はナ形容詞です。ナ形容詞は辞書形がナで終わりません。例えば「きれい」を辞書でひくと「きれい」としか書いてありません。下の方に「ーナ」「ーニ」と書かれていますが、項目そのものにはナがありません。ナ形容詞というのにナが無いじゃないか!と怒りたくなる気持ちわかります。おそらく留学生の方が思っているでしょうね。ナ形容詞というのに辞書を引いてもナが付いていないんですから。「こんにちは」の「は」が”wa”って読むぐらいびっくりですね。
ではこのナはどこから出てくるかというと、形容動詞の活用の連体形に出てきます。形容動詞の活用は「だろ、だっ、で、に、だ、な、なら」です。この後ろから二番目の「な」が連体形ですね。じゃあ「だ」は?終止形です。え?終止形ってことは辞書形じゃないの?なんで辞書には「きれいだ」って書いてないの?ってことになりますね。
そうなんです。「きれいだ」は形容動詞「きれい」の終止形ですが、辞書には載っていません。なぜなんでしょうか。なぜかというと、形容動詞というのは元々名詞なんですね。「綺麗」も「便利」も「元気」も名詞です。名詞だから「{綺麗/便利/元気}が一番!」のように格助詞を付けることができます。なぜこれらの名詞がナ形容詞と呼ばれるかというと、程度性があるからです。名詞には動作性があるものと程度性があるものがあります。動作性があるものはスルが付いて動詞になります(勉強する、掃除するなど)。「綺麗」には程度性がありますね、ちょっと綺麗、めっちゃ綺麗など言えますから。程度性は状態に備わります。ある状態というのは大体程度(段階性)があるんですね。「程度性がある→状態性がある→形容詞→イ形容詞とは違うから違う名前をつけよう→形容動詞→留学生には形容動詞ってわかりにくいから連体修飾の時に現れる形で呼ぼう→ナ形容詞」ということになりました。ちなみに形容動詞ということばは、助動詞の「だ」と同じような活用をするため付けられました。
長々と書きましたが、要はナ形容詞は元々名詞であり、「大きい」「小さい」などのようなイ形容詞とは出自が異なるということです。共通するのはどちらも状態性がある、ということです。そしてイ形容詞、ナ形容詞に続く形ですが、イ形容詞の場合「かった(過去)」「くない(否定)」「と思う」で、ナ形容詞は「だった」「じゃない」「だと思う」になります。このどちらを使うのかを、留学生は瞬時に使い分けないといけないから大変ですね。この「かった」か「だった」か、「と思う」か「だと思う」かは、我々は直感で使い分けていますが、留学生はそうはいきません。直感でわからないとしたら、よく使う方を使うと思います。この両者、どちらの方がよく使うでしょうか。それは圧倒的に「だった」「だと思う」の方です。なぜかというと、この「だった」「だと思う」は名詞に続く場合と同じだからです。
ナ形容詞は元名詞ですから、ナ形容詞も名詞も後接の形が同じなんですね。ですから「便利」も「雨」も「だった」「だと思う」と続きます。名詞というのは品詞の中で最も数が多いわけですから、「だった」「だと思う」という形がメジャーで、「かった」「と思う」の形はマイナーということになります。
ですから留学生はイ形容詞だろうがナ形容詞だろうがとりあえずわからなかったら「だった」「だと思う」を使うわけですね。結果「やさしいだと思います」「うれしいだと思います」「おいしいだと思います」のような誤用が量産されます。
これは、状態性のある名詞を形はそのままに、形容詞としてしまったから生じた混乱ですね。ちなみに日本人でも間違えるというか方言レベルで「イルミネーションめっちゃきれかった~(綺麗だった)」「これめっちゃきれくない?(綺麗じゃない)」のような言い方を若者世代でよく耳にします(私は言いませんが)。これもイ形容詞とナ形容詞の混同から生じる現象だと言えます。
日本語教師としては、このような誤用のメカニズムを知ったうえで、イ形容詞・ナ形容詞の接続形に関する誤用に出会ったら、すかさず修正するフィードバックができるようになりたいものですね。(でもほんとに多すぎてスルーしてしまうんです・・)
第1回目の鈴木ブログ、いかがだったでしょうか。これからもこのような日本語教育、日本語文法に関する四方山話を書いていきたいと思います。2回目は1月1日ですね。こうご期待!ではみなさんよいお年を!

