トとバの違いは何?文型分析のススメ

みなさん明けましておめでとうございます。

本年もどうぞよろしくお願い致します。

昨年の年末の日本人向けの日本語文法の授業で接続助詞のトを取り上げました。トはバ、タラ、ナラと並んで日本語教育では条件表現の重要項目ですね、トバタラナラが完壁に教えられるようになれれば日本語教師としては1人前と言えるのではないでしょうか?

留学生にとってトバタラナラが難しいのは当然ですが、日本人にとってもなかなかやっかいなテーマです。それぞれの違いが直感ではわかりますが、それらの機能の違いをきちんと説明するのはなかなか骨が折れます。

さてそんな条件表現の入り口のトですが、皆さんはどんな意味を持つと思いますか?春が来ると「春が来ると桜が咲く」「スイッチを押すと電気がつく」などの例から分かるように恒常的反復の事象に使われます。私が日本語文法の授業でいつもするのは、学生にとりあえず例文を考えてもらうことです。みんなそれぞれ違う例文を考え、それぞれに発見があります。

学生の1人が挙げた例文は「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」です。みなさんご存知川端康成の小説『雪国』の冒頭の一節です。このトは上述したような恒常的反復ではありません。それどころか一時的な場面転換を想起させます。この一節からは暗いトンネルから一面雪景色の世界に入り込んだ主人公の驚きまで伝わってきます。

次に上がった例文は「振り返ると君がいた」というものでした。これは何かの引用というわけではありませんが、先の『雪国』の一節とはやや意味合いが違うように感じます。もちろん「振り返ると君がいて驚いた」とように一時性も表されるのですが、「振り返るといつも君がいた」→いつも身近に居てくれた君、のような解釈も可能です。ここで私が思い出したのは織田裕二主演のドラマ『振り返ればヤツがいる』です。

1993年のドラマなので知らない人も多いかと思いますが、当時はみんな見ていた超人気ドラマです。真面目な医師石川(石黒賢)と、ダークな医師司馬(織田裕二)がライバル関係にある医療ドラマです。このタイトルは、石川の背後にいつも司馬がいて、邪魔してくるけど腕は一流だから文句も言えないことからつけられています。(皮肉なことに司馬は最終回で後ろから刺されて死にます)

「振り返ると奴がいる」と「振り返れば奴がいる」は何が違うでしょうか?この場合、トは先に述べたとおり「いつも奴がいる」のように恒常性が感じられます。一方バも恒常的ではあるのですが、振り返る度「え?いたの?」的な意外性がある様に感じます。実際ドラマ内でも織田裕二が突如現れ石黒賢の邪魔をするシーンがよく見られました。

となるとトとバでは、予測可能性や蓋然性といったものも関係しそうですね。さらに難しいのが、「振り返ると君がいた」の方が意外な感じがする、という学生もいるのです(!)。そう言われると確かにそんな気もします。「振り返るといつも君はいてくれたね。ずっとぼくを見守っていてくれてたんだね」のようにすればトからも意外性が読み取れます。

もうこうなるとわやですね(名古屋弁です)。こんなときは「日本語って難しいですね(汗)」と言ってお茶をにごします(笑)。

以上のことを考えると、トがいつもそうなるという恒常的反復という説明だけでは終わらないという事がわかります。ではこれらのことを日本語教育の現場、特に初級の授業で盛り込むとなるとなかなか難しい、と言うかほぼ無理ですね。ただここで重要なのは、このように1つ1つの文型項目についてあーでもないこーでもないと考える、ということです。答えは出なくても構いません。どう教えるかを考える前に、当該の文型と向き合い、深く考える作業が文型分析であり、日本語教師としての基礎作りになります。

みなさんも普段何気なく使っている日本語を振り返えり、掘り下げて考えてみましょう。それができればもうあなたは日本語学者であり、日本語教師への道を踏み出したと言えます。

(鈴木基伸)